退職給付債務の算定の基本的な流れ

退職給付債務」とは、退職給付(従業員の退職以後に支給される給付)のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたものをいいます(退職給付に関する会計基準第6項参照)。

言葉だけでは難しいですので、非常に単純な数値を使って退職給付債務の算定の流れを見ていきましょう。

退職給付債務の基本的な計算例

たとえば×1年の期首に入社した従業員A社員の全勤務期間を5年とし、5年後の退職時に会社がAに支払う退職時一時金の見込額を100,000円であるとします。
この従業員の×3年末時点(入社から3年経過時点)における退職給付債務を計算してみましょう(各期への退職給付の配分は期間定額基準、割引率は5%とする)。

1.退職給付のうち認識時点までに発生していると認められる金額とは

上記の退職給付債務の定義をもう一度ご確認ください。退職給付債務は退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分割り引いて計算したものをいいます。
このうち退職給付とは従業員の退職以後に支給される給付をいいますので、今回の設例では退職一時金の100,000円がこれにあたります。

この退職一時金100,000円は従業員が退職前の各期(×1年から×5年までの5年間)において労働力を企業に提供したことを原因として支給されるものですので、企業は発生主義の観点からは退職前の各期においてこれを費用として認識するとともに、将来の期間において負担すべき金額を債務として認識する必要があります。

では退職給付(この設例では100,000円)のうち、認識時点(この設例では×3年末)までに発生している金額とはどのように計算すればよいのでしょうか?
これは退職給付100,000円を×1年から×5年までにどのようにして割り振るにより異なりますが、仮に毎期同額ずつ割り振るものとした場合、各期の配分額、及び×3年末時点おいて発生していると認められる金額は以下のようになります。

各期の配分額:退職給付金100,000円÷就業期間5年=20,000円

×3年末時点における認識額:×1年発生額20,000円+×2年発生額20,000円+×3年発生額20,000円=60,000円

×1年
20,000円
×2年
20,000円
×3年
20,000円
×4年
20,000円
×5年
20,000円

退職給付の各期への配分方法については上記の毎期同額とする方法は期間定額基準といいます(これ以外の方法もあります)。

上記の具体例では、毎期同額と仮定(期間定額基準)していますので退職一時金を就業期間で按分して各期への割り振り額を算定しています。
各期への割り振り額が分かれば、×3年末時点における認識金額は×1年から×3年までの金額を合計することにより算定されます。

2.割り引いて算定

退職給付は従業員の退職以後に支給される金額をいいますので、実際にお金が出ていくのはかなり先になります。したがって、退職給付のうち認識時点までに発生していると認められる金額(×3年末で60,000円)をそのまま企業の債務として認識するのでなく、これを退職期から現在までの期間で割り引いた(割引計算した)うえで債務として認識することになります。

×3年末時点から×5年末の退職時までの期間は2年となりますので、この60,000円を割引率5%、期間2年で割り引いた金額が×3年末時点において企業が認識すべき退職給付債務となります。

×3年末の退職給付債務:×3年までに発生している退職給付60,000円÷(1+0.05)^2年=54,422円

※ 「^」は累乗・べき乗を表しています。

上記より、×3年末時点において企業が従業員Aについて認識すべき退職給付債務は54,422円となります。
退職給付債務の算定では、退職給付の見込額の各期への配分割引計算という2つのプロセスを経て算定することになります。

(関連ページ)
退職給付費用の内訳(勤務費用と利息費用の基礎概念)

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