「退職給付債務」とは、従業員に将来支払う退職給付(退職金・退職一時金など)に備えて認識した債務をいいますので、実際に従業員が退職し、企業が退職一時金などを支給した際には、企業が認識していた退職給付債務は減少することになります。
実際の退職金の支払いは企業自身が行うか、それとも年金基金(企業の外部に年金資産を積み立てている場合)によって会計処理が異なります。以下それぞれの場合のケースを簡単にご説明しています。
1.企業自身が退職金を支給した時
企業自身が従業員に退職金(退職一時金)を直接支給した時は、現金預金などの資産の減少と同時に退職給付引当金(負債の部に計上していた退職給付債務)を減少させることになります。
たとえば、企業が退職した従業員に対し退職一時金として現金10,000円を支給した時の仕訳は次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
退職給付引当金 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
退職一時金として従業員に10,000円を支給することにより、現金という資産が10,000円減少しますので貸方は「現金10,000円」となります。
いっぽう退職一時金を支給することにより、企業が従業員の退職時に支給しなければならない債務(退職給付引当金の貸方に計上済み)が10,000円減少しますので借方には「退職給付引当金10,000円」と記入します。よって上記の通りの仕訳となります。
2.年金基金が退職金を支払った時
将来の退職給付の支給に備え、企業が外部の年金基金に掛金を積み立てていた場合、実際の従業員への退職金の支払いは年金基金が行うことになります。従業員が退職し従業員へ退職金が支払われることにより、企業が従業員の退職時に支給しなければならない退職給付債務が減少すると同時に、その退職金は企業が年金基金に積み立てていた資産(年金資産)よりしはらわれることになりますので年金資産も減少します。
たとえば上記1の退職した従業員に対し退職一時金として支給された10,000円が年金基金より支出されたものであった場合の仕訳を考えた場合、理論的には次のような仕訳が必要になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
退職給付債務 | 10,000 | 年金資産 | 10,000 |
年金基金が退職一時金として従業員に10,000円を支給することにより、年金資産が10,000円減少しますので貸方は「年金資産10,000円」となります。
いっぽう退職一時金を支給することにより、企業が従業員の退職時に支給しなければならない債務(退職給付債務)が10,000円減少しますので借方には「退職給付債務10,000円」と記入します。したがって考え方としては上記のような仕訳が必要となります。
ただし、実際の仕訳上は退職給付債務も年金資産もともに『退職給付引当金』勘定を使って処理しますので、上記の仕訳は借方・貸方ともに退職給付引当金という勘定科目を使って記帳することになります。借方・貸方が共に同じ勘定科目で同じ金額となりますので、実際には仕訳は必要なく「仕訳なし」として処理することになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕訳なし |