数理計算上の差異の基礎(退職給付会計)

退職給付債務や退職給付費用・退職給付引当金などの計算は見積数値を使って計算します。
当然に見積数値ですので、実際の数値とズレが生じることがあります。このズレは何らかの方法で調整しなければなりません。
このズレを数理計算上の差異といいます。

退職給付に関する会計 第11項において数理計算上の差異とは次のように定義されています。

「数理計算上の差異」とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異及び見積数値の変更等により発生した差異をいう。

数理計算上の差異が発生するということは、見積り計算によって費用処理した退職給付債務が実際に計上すべき金額より少なかった場合などをいいますので、調整の方法としては数理計算上の差異の発生が判明した時点でこれを追加で費用処理することとなります。
費用処理の方法には、数理計算上の差異が発生した年度にすぐにその全額を費用処理する方法のほか、以下のような定額法と定率法という方法があります(なお判明した数理計算上の差異のうち、未だに費用化されていない金額を未認識数理計算上の差異といいます)。

定額法 数理計算上の差異は、原則として各期の発生額について、予想される退職時から現在までの平均的な期間(平均残存勤務期間)以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する。

各期の費用化金額=数理計算上の差異÷一定の年数

定率法 数理計算上の差異については、未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する方法によることができる。この場合の一定割合は、数理計算上の差異の発生額が平均残存勤務期間以内に概ね費用処理される割合としなければならない。

各期の費用化金額=未認識数理計算上の差異×一定割合

平均残存勤務期間は、在籍する従業員が貸借対照表日から退職するまでの平均勤務期間をいいます。
なお定額法と定率法とは選択適用できますが、いったん採用した費用処理方法は、正当な理由により変更する場合を除き、継続的に適用することが必要となります(退職給付に関する会計基準第24項 退職給付に関する会計基準の適用指針第35・36・37項等参照)。

数理計算上の差異に関するとの基本的な計算と仕訳例

以下の資料より、決算時に必要な数理計算上の差異に関する仕訳を示しなさい。なお、数理計算上の差異は発生年度より4年で毎期均等額の償却を行うものとします(定額法)。

1.期首の年金資産を50,000円
2.長期期待運用収益率を5%
3.当期の実際の運用収益率は4%

(解答)

期待運用収益:50,000円×5%=2,500円
実際運用収益:50,000円×4%=2,000円

よって数理計算上の差異は
数理計算上の差異:期待運用収益2,500円-実際運用収益2,000円=500円(当初の未認識数理計算上の差異)

これを当期から4年間で償却するため、当期の償却額は
当期の数理計算上の差異の償却額:500円/4年=125円(※予想よりも実際が少ない不利差異の償却のため費用の増加として処理します)

借方 金額 貸方 金額
退職給付費用 125 退職給付引当金 125

なお、期末時点の未認識数理計算上の差異は以下のようになります。
500円-125円(既償却額)=375円(不利差異)

期待運用収益が2,500円であったのに対し、実際運用収益は2,000円しかなく、実際の年金資産の残高が500円見積りよりも少なかったことになります。資産が見積りより少ないので不利差異となり、その償却額は費用として処理することが必要となります(見積で計上してしまった年金資産の過剰金額500円を毎年125円ずつ4年間かけて減額し、実際の金額に合わせていきます)。
なお、貸方には退職給付債務の増減を表す「退職給付引当金」勘定を使って記帳します。

(関連ページ)
過去勤務費用の基礎(退職給付会計)
期待運用収益の仕訳・記帳

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