個別法の基礎(払出単価の決定・棚卸資産の評価方法)

商品の払出単価の決定方法(期末棚卸資産の評価方法)のうち、個別法とは、取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法をいいます。個別法は、美術品や宝石・不動産など個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法です(棚卸資産の評価に関する会計基準6-2参照)。

不動産や書画・骨董・美術品などは、その商品の個別性が非常に強く、同じ商品というものがありませんので、これらを商品として仕入れた時はそれぞれの取得原価を仕入れた商品ごとに区分して記録しておき、その商品が売れた場合は実際に売れた商品の取得原価を使って払出原価を算定します。また期末に売れ残った商品についても実際の売れ残った商品の取得原価を使って期末棚卸資産の価額を算定することになります。

演習問題:個別法による払出原価・期末棚卸資産原価の算定

古美術商を営む当社の当期の商品の仕入・販売は以下の通りである。個別法により当期の売上原価および期末棚卸資産の原価を算定しなさい(当社の決算日は毎期3月31日である)。

4月1日:期首商品棚卸高0円(在庫なし)
6月15日:書画A(仕入原価500,000円)を購入した
7月20日:陶器B(仕入原価600,000円)を購入した
9月1日:陶器Bを800,000円で販売した
12月3日:書画C(仕入原価200,000円)を購入した
1月2日:書画Cを300,000円で販売した
3月31日決算日における在庫は書画Aのみであった。

(解説)
個別法では取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって払出原価および期末在庫の価額を算定します。
したがって、商品を仕入れた場合にはそれぞれの取得原価をもって他の在庫と区別して記帳し、実際のその商品が売れた時に、その商品の払出原価をもって払出原価とします(実際のモノの流れと帳簿上のモノの流れを完全に一致させます)。

本設問では、9月1日に陶器Bを、1月2日に書画C販売していますが、この商品の払出原価は陶器Bと書画Cの実際の仕入原価を使って算定します。
いっぽう、決算日において書画Aとが在庫(売れ残り)となっていますが、この期末棚卸資産の原価は実際の書画Aの仕入原価を使って算定しますので、当期の売上原価および期末棚卸資産の原価の算定額はいかのようになります。

売上原価(払出原価)=陶器Bの仕入原価600,000円+書画Cの仕入原価200,000円=800,000円

期末棚卸資産の原価(売れ残り原価)=書画Aの仕入原価500,000円

個別法は上記のように仕入れた商品の個別管理が必要となりますので、実際の小売店などでこの方法を使用するのは大変な手間を要することになります。また仕入原価の異なる同じ商品を有する場合、どの仕入れ値の商品を販売するかで利益操作が可能となる恐れがあります。
したがって、不動産や書画・宝石・骨董など各商品の個別性が高く、同じ種類の商品がないような場合に適用されることになります。

(関連ページ)
先入先出法の基礎(払出単価の決定・棚卸資産の評価方法)
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